整数論の(未解決)問題である「合同数問題」を主軸に、数論幾何学という学問の概観・歴史を解説します。素朴な不定方程式を解くという 「合同数問題」は、簡単な式変形で、ある種の楕円曲線(平面3次曲線)の有理点の問題に帰着されます。ミレニアム問題の一つである BSD(バーチ&スイナートン・ダイヤー)予想は、これと「L関数」と呼ばれる数論的な関数の振舞いとを関連付けています。このように、 整数論の深い問題は楕円曲線の数理と(不思議に)関連することが多いのですが、そのもう一つ有名な例が、アンドリュー・ワイルスによる 「フェルマーの最終定理」の解決(1994)です。古代数学からの古典的問題が、楕円曲線などの幾何的問題に置き換えられ、現代ではその 解明が進んでいるという、長い歴史のある学問の系譜です。歴史という縦軸と、数学的内容という横軸に交えながら、できるだけ簡明に数論幾 何学の面白さに触れて行きたいと思います。
数学という学問は人類文明の歴史と同じくらい古いものだとも言えますが、現在の、定義から出発し証明により定理を積み重ねていくというスタイルはギリシア時代に著されたユークリッドの「原論」という書物に起源を持つとするのが一般的です。この本は通常、幾何学の基礎を築いたものとしてその名声が高いものですが、いわゆる初等整数論にも全13巻のうち3巻があてられています。そこに「完全数」という概念が登場します。ユークリッドは完全数の見つけ方についてある命題を証明しているのですが、以後、完全数の理論の次の進展は18世紀のオイラーを待たねばなりませんでした。講義では完全数の話をそういった歴史に沿って述べ、皆さんにも解くチャンスのある、未だ誰も証明に成功していない未解決問題を紹介します。さらに、完全数にも深く関係する「素数」について、いくつかの話題と、それにまつわる、やはり未解決の難問(これには約一億円の賞金もかかっています)についてお話しします。
この講演ではトポロジーと呼ばれる数学を用いて、科学の世界を眺めてみます。トポロジーとは現代数学における幾何学の一分野であり、切り貼りしない連続変形で移り合える図形は同じと見なすルールで記述されています。このルールのもとではコーヒーカップとドーナツは同じ対象と見なされ、この例からも分かるように「穴」の存在という粗っぽい構造が本質的に重要になってきます。では、このように詳細な幾何情報をあえて捨て、粗っぽい「穴」の構造のみで勝負することで、どのようなことが可能になるでしょうか。ここではトポロジーを用いた情報通信・生命科学・材料科学などへの最近の探検を紹介しながら、この質問に答えてみたいと思います。
今回セミナーが開催される福岡県大川市は「家具づくりの町」として有名です。この企画は伝統工芸である「組子」を作っている工房を訪ね、皆さんに組子づくりを体験してもらうものです。組子の模様がもつ対称性は、芸術にはもちろん数学的にもたいへん興味深く美しいものです。
和室の障子・欄間(らんま)などの建具を作るときに使われている木工技術。釘などを使わずに細かく割った木材を手作業で組み合わせ、様々な模様を編んでいく伝統的な技法です。大川組子は約300 年の歴史を誇り、200 以上もある伝統的な組方は、より繊細なものとして今日に伝承されています。
今回のセミナーでは、皆さんの他に、大川市および周辺の中学生が部分参加します。皆さんには、少人数のグループに分かれて「先生」として中学生に向けて「講義」をしてもらいます。「講義」の前には、大学生のアシスタントと一緒になって準備を行います。
夕食後に「夜ゼミ」という形で自由に交流する時間が設けられます。講師の先生方や大学生・大学院生を囲んで様々な議論をしたり、高校生同士がお互いに教えあったりできる場です。
参加者のなかで希望した数名が興味のあるテーマについて発表します。ひとりあたり、だいたい5~10 分の時間をとる予定です。テーマは数理科学に関することでも、まったく関係のない趣味に関してでもなんでもOK です。とてもよい機会となりますので、皆さんもぜひセミナーで参加者発表をしてみませんか?