第6回〜第13回数理の翼夏季セミナー
〜より面白いセミナーへ試行錯誤〜


 1984年に財団法人数理科学振興会が設立された。
 これに伴い、それまで第5回まで行われていた「広中教育研究所夏季セミナー(広中教育研究所主催)」は、「数理の翼夏季セミナー」と名前を変え、数理科学振興会と広中教育研究所の共催になった。
 同時に湧源クラブのセミナーへの協力も強まり、第6回セミナー以降は実務的な運営のほとんどが湧源クラブ内から選ばれたスタッフに任されるようになり、さらに参加者の一員として高校生をリードする役割の「班長」が湧源クラブ員の大学生から選ばれるようになった。
 また、第6回セミナーでは、セミナーOB・OGである湧源クラブ員が初めて講師の一部を務めるようになった。下の第6回セミナー講義リスト中の泉俊輔、塩田隆比呂、高安秀樹,板東重稔は、初期のセミナーに当時大学院生として参加していた湧源クラブ員である。以後、毎年のセミナーには必ず湧源クラブ員が講師の一部を務めるようになる。
 
 

□第6回  1985年8月 5日〜11日  秋田県田沢湖(参加者62名)

☆講義・・・
 「曖昧について」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会設立代表、京都大学・ハーバード大学教授)
 「石鹸膜とシャボン玉」(小田 忠雄:東北大学理学部数学科教授/★坂東 重稔:東北大学理学部数学科助手)
 「宇宙と数理」(大家 寛:東北大学理学部地球物理学科教授)
 「情報通信の今日と明日」(瀬谷 重信:NTT関東総支社企画室長,データ通信部長)
 「植物の中の “よい香り”を探る」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科大学院博士課程)
 「Korteweg de Vries(Kdv)方程式」(★塩田 隆比呂:ブランダイス大学数学科助教授)
 「フラクタル」(★高安 秀樹:京都大学理学部物理学科研究員)

 高校側の理解も深まり、参加者の顔触れが「数学のできる人達」から 「数理科学に興味を持つ人達」へと徐々に変わっていく。一方、何回も セミナーを開くことにより開催者の経験 や伝統が積み重なって、セミナー の内容は固まってきた。
 
 
□第7回  1986年8月16日〜22日  広島県似島(参加者61名)

☆講義・・・
 「広中ゼミ」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会設立代表、京都大学・ハーバード大学教授)
 「分子軌道と化学反応」(今村 詮:広島大学理学部化学科教授)
 「ワークショップ」(梶川 泰司:デザインサイエンス研究所)
 「Some Aspects of Physics and Mathematics」(Daniel Kleppner:マサチューセッツ工科大学物理学教授)
 「幾何学における数学的自然」(岡本 清郷:広島大学理学部数学科教授)
 「熱伝導の漸近挙動」(陳 旭彦:広島大学大学院理学研究科数学専攻)
 「タンパク質の構造〜α-ヘリックスの構造安定性」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科大学院博士課程)
 「Structure and Algorithms in Mathematics」(★塩田 隆比呂:ブランダイス大学数学科助教授)


□第8回  1987年8月17日〜23日  富山県立山(参加者66名)

☆講義・・・
 「日本の課題」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会設立代表、京都大学・ハーバード大学教授)
 「数学言語と日常言語」(西垣 通:明治大学情報工学,情報文化論助教授)
 「イメージから思考へ」(佐伯 胖:東京大学教育学部助教授)
 「コンピュータ・グラフィクス」(吉良 健二:NHK送出技術局副部長)
 「複素数と複素関数」(★塩田 隆比呂:ブランダイス大学数学科助教授)
 「代数曲線の種数」(★森脇 淳:京都大学理学部数学科助手)
 「植物培養細胞の営む生化学反応による物質交換」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科大学院博士課程)


□第9回  1988年8月 4日〜10日  京都府北桑田郡京北町(参加者67名)

☆講義・・・
 「微分作用素の可換環」(★塩田 隆比呂:ブランダイス大学数学科助教授)
 「考古学と先端技術」(吉村 作治:早稲田大学人間科学部助教授)
 「広中ゼミ」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会設立代表,京都大学・ハーバード大学教授)
 「数と級数」(斎藤 恭司:京都大学数理解析研究所教授)
 「生命科学について」(中村 桂子:三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長)
 「Topologyと物性」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科助手)
 「Stably Periodic Continued Functions and Quadra- tic Numbers」
  (Bernard Morin:ルイ・パスツール大学数学科教授/吉田 正章:九州大学理学部数学科助教授)

 オーストラリアで開かれた第10回セミナーは、特別に参加者のほとんどを セミナー経験者 から募り、同窓会の雰囲気があった。このころ、セミナーの 構成が固定化してきていることに対し、湧源クラブ内から疑問の声があがった。
 
 
□第10回  1989年8月 5日〜15日  オーストラリア/クーラルビンバレー・リゾート(参加者118名)

☆講義・・・
 「線形代数+代数幾何学」(★小林 正典:東京大学理学系研究科数学専攻博士課程)
 「フラクタル凝集入門」(★鶴見 智:群馬工業高等専門学校)
 「自然科学と創造性について」(★美馬 義亮:日本IBM東京基礎研究所)
 「計算機と不完全性定理」(★藤波 順久:ソニーコンピューターサイエンス研究所)

 第11回セミナー以降、内容や構成を毎年根本から検討し、各回の特色を出そう とより一層努力するようになった。その結果、イベントが整理されたり、新しい 企画が生まれたり している。11回セミナーでは試みとして班長の湧源クラブ員からの募集を取りやめた。
 

□第11回  1990年8月 6日〜12日  大分県湯布院(参加者72名)
 

☆講義・・・
 「広中ゼミ」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会設立代表,ハーバード大学教授)
 「ものの見方、情報の読み方」(中馬 清福:朝日新聞論説委員)
 「日本女性史」(古庄 ゆき子:別府大学教授)
 「Links in Mathematics and Physics」(Dr.Lawrence:ハーバード大学助教授)
 「宇宙と素粒子をめぐって」(Dr.Glashow:ハーバード大学教授)
 「数理物理」(★塩田 隆比呂:ブランダイス大学助教授/Dr.Lawrence)
 「現象とコンピューター」(★小川知之:広島大学理学部数学科助手)
 「植物との対話」(★泉俊輔:広島大学理学部化学科助手)
 「カオスとフラクタル」(★服部裕司:東京大学大学院物理学修士課程)
 「細胞の不死化-ガン化と老化の接点を求めて」(★今井眞一郎:慶応大学医学部博士課程)
 第12回、第13回セミナーでは、教育や死など身近な問題についての討論を行う「フォーラム」が行われた。これは、例えば「死」なら「自殺」「安楽死」「宗教」などのいくつかのテーマ別にグループに分かれて討論し、その結果をさらに全体会で発表するという形式で行われた。
 

□第12回  1991年8月 4日〜10日  岐阜県乗鞍(参加者75名)
 

☆講義・・・
 「数理的な物の見方」(甘利 俊一:東京大学計数工学科教授)
 「Some Uses of Computers in Mathematics」
               (Dr.Ronald L.Graham:AT&Tベル研究所情報科学部門研究課副理事)
 「大陽光発電の現状と将来」(桑野 幸徳:三洋電機理事)
 「地球環境問題と太陽電池の利用」(渡辺 博之:京セラ ソーラー・エネルギー事業部企画部責任者)
 「IMO第32回大会の問題」(Peter Frankl:慶応大学非常勤講師,ジャグラー)
 「海洋光合成生物の研究と開発」(三井 旭:マイアミ大学海洋環境学部教授)
 「直交関数系について」(★塩田 隆比呂:京都大学数理解析研究所研究員)
 「ソフトウェア危機はなぜ起こる?」(★金磯 善博:株式会社インテリジェント・テクノロジー)
 「枯れ木に花を咲かせる話−植物の形を決めるもの」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科助手)
 「数学者 サミット・トーク」(甘利 俊一・Dr.Graham・広中 平祐・Peter Frankl)
 「クリーン・エネルギー サミット・トーク」(桑野 幸徳・三井 旭・渡辺 博之)
☆フォーラム:「教育」


□第13回  1992年8月 5日〜11日  北海道大沼(参加者74名)
 

☆講義・・・
 「カオスの世界」(合原 一幸:東京電機大学工学部助教授)
 「第二電電創設の軌跡」(千本 倖生:第二電電株式会社専務取締役)
 「数学クイズの数々」(Peter Frankl:早稲田大学・慶応大学大学非常勤講師,ジャグラー)
 「金属水素」(Yuri M. Kagan:Head,Solid State Theoretical Division of The Kurchatov Institute of Atomic Energy)
 「広中ゼミ」(広中 平祐:財団法人数理科学振興会理事長,京都大学・ハーバード大学名誉教授)
 「抽象数学と具体的な数学」(★塩田 隆比呂:京都大学理学部数学科助教授)
 「植物細胞の相互に情報を伝達するタンパク質」(★泉 俊輔:広島大学理学部化学科助手)
 「Prologにおける法律エキスパートシステムについて」(★児島 幸良:京都大学大学院法学研究科修士課程)
 「逆三角関数、楕円関数、周期」(★永井 礼正:東京工業大学大学院理工学研究科数学専攻修士課程)
 「“本来−適応モデル”による3つのアプローチ」(大橋 力:文部省放送教育開発センター)
 「座談会」(合原一幸,千本 倖生,広中平祐)
☆フォーラム:「死」


講師の肩書きは,セミナー実施当時のものである.
★印のついている講師は,湧源クラブ員(数理の翼セミナーOB)である.


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