数理の翼夏季セミナーは、「数理科学は若いうちから才能を伸ばすことが
可能であり、 またそれが望ましい学問である」という広中平祐先生の考えか ら生まれ、1980年夏に第1回セミナーが開かれた。第1回〜5回は、広中教
育研究所が主催したので、名称は「広中教育研究所夏季セミナー」だった。
このセミナーが初めて開かれた当時、数理科学関係のセミナーを高校生に
対して行うということは大変珍しかった。そのためか参加者は学校の代表と して選ばれることが多く、中にはセミナーで試験が行われるかも知れないと
思うなど、代表であることを意識しすぎる人も いたようである。
第1回セミナーでの講義は、「すべての参加者に理解できる内容を」とい
うことに重点が 置かれたため、高校の知識の延長程度の内容で、説明もか なり丁寧であった。
しかし、第2回セミナーから方針は変化した。参加者が理解できなくても、
数理科学の魅力を感じさせる講義を、ということに重点がおかれ、難しくて も新しい話題、面白い話題
が取り上げられるようになる。
そのため、このセミナー以後、講義が分からない、というショックを受け
る人達が現れ た。「世の中、わからないこともある」と開き直ってしまう人 達もいたが、「絶対わかるはずだ」と夜になって大学生、院生に質問する人
達もいた。また、共通の興味を持つ高校生達が夜遅くまで、時には徹夜して、
語り合うという光景が、既にこの頃から見られた。こ のような経緯で自然に、
参加者の間で、自由時間に小人数のゼミが開かれるようになり、後に「夜ゼ ミ」と呼ばれ定着する。
また、第2回セミナーから参加者発表が行われるようになり、現在まで続いている。
□第1回 1980年8月 8日〜12日 栃木県那須(参加者46名)
☆講義・・・
「ゴールデンナンバーを考える」(広中 平祐:京都大学・ハーバード大学教授)
「生物系の科学と統計学」(佐藤 信:国税庁醸造試験所第1研究室長)
「数学を学ぶ人達へのメッセージ」(柏木 恭忠:柏木研究所代表取締役)
「エンジニアリングを考える」(合田 周平:電気通信大学教授)
□第2回 1981年8月10日〜15日 石川県加賀(参加者54名)
☆講義・・・
「ダイナミズムとカタストロフィーの数学」(広中 平祐:京都大学・ハーバード大学教授)
「集団遺伝学の話」(太田 朋子:国立遺伝学研究所集団遺伝部第1研究室長)
「建築のモルフォロジー」(原 広司:東京大学生産技術研究所助教授,建築家)
「コンピュータを学ぶ諸君へ」(柏木 恭忠:柏木研究所代表取締役)
□第3回 1982年8月 3日〜 8日 長野県志賀高原(参加者54名)
☆講義・・・
「特異点解消の話」(広中 平祐:京都大学・ハーバード大学教授)
「銀河系の進化」(石田 惠一:東京大学東京天文台助教授)
「トポロジーの話」(本間 龍雄:東京工業大学理学部情報科学科教授)
「BASIC入門」(長坂 武夫:横河・ヒューレット・パッカード社コンピュータ事業部)
「地域分析における幾何学」(藤井 明:東京大学生産技術研究所助教授)
第3回セミナーまでは広中教育研究所によって運営されていたが、その後
セミナー参加者 によって湧源クラブが結成され、第4回セミナーからは、 湧源クラブ内から数人の大学生をセミナースタッフとして選び、セミナー運営
の仕事の一部を補佐する役割を果たすようになった。
□第4回 1983年8月 4日〜10日 北海道大沼(参加者56名)
☆講義・・・
「フラクタル」(広中 平祐:京都大学・ハーバード大学教授)
「筋肉の生化学」(盛田 フミ:北海道大学理学部科学第二学科助教授)
「青函トンネルの科学技術」(北村 章:日本鉄道建設公団青函建設局長)
「地球の氷・宇宙の氷」(東 晃:北海道大学工学部応用物理学科教授)
□第5回 1984年8月 9日〜14日 韓国ソウル(参加者61名)
☆講義・・・
「解析性について」(広中 平祐:京都大学・ハーバード大学教授)
「人間と機械」(廣瀬 通孝:東京大学工学部産業機械工学科助教授)
「曲面論に関して」(李 起安:全北大学数学科教授)
「秋史について」(金 ■春:東國大学韓国史学科教授)(■は,「日」かんむりの下に「火」)
講師の肩書きは,セミナー実施当時のものである.